施設報告
ナゴヤドームの照明設備
照明事業部 営業技術部 営業技術課
照明事業部 営業技術部 LCS
照明事業部 商品企画開発部 第三開発課
照明事業部 民需特販営業部 名古屋営業課
キーワード
スポーツ照明,体験・体感型照明空間,DMX制御,演出照明
1.はじめに
ナゴヤドームは愛知県名古屋市東区にあるドーム球場で,プロ野球セントラル・リーグ「中日ドラゴンズ」の本拠地として使用され,コンサートや展示会,スポーツ大会をはじめとするさまざまなイベントに活用される名古屋のランドマークとなる施設である。開場20年を迎えた2017年にバックスクリーン「106ビジョン」の大型映像装置を増設し,2018年度は人工芝の全面張り替えに加え,照明設備のLED化を行った。
この照明設備改修工事において,消費電力の削減だけではなく施設価値の大幅な向上を目指し,これからの時代を見据えた高品質・高付加価値の照明設備を導入した(図1)。照明設備概要を図2に示す。
2.コンセプト
昨今,スポーツにおけるエンターテインメント性の高まりが急速に進んでいる。その一方で,インターネットの普及などメディアの発達によりスポーツ施設への来場者数は減少傾向にある。そのため,これからのスポーツ照明設備は,競技者はもちろん,観戦者へその場でしか味わえないような空間を提供できることが重要と考えた。
「スポーツをする・観るだけでなく“魅せる”空間へ」
競技者がプレーに集中できる良好な照明環境,観戦者が臨場感のあるプレーを楽しめる照明環境,さらに試合の興奮をより感動的な体験へとつなげる照明演出を実現する高次元のアリーナ照明設備を導入することで,驚きと感動をもたらす体験・体感型の照明空間の実現を目指した。図3にコンセプトダイアグラムを示す。
高次元のアリーナ照明実現のための技術的解決方法を以下に示す。
- 機能照明と演出照明を兼ね合わせた新しい照明ジャンルを確立
- 高付加価値のフィールド照明とドーム天井照明の導入
- 継続的に活用できる照明制御システムの導入
- 照明設計および光環境調査
2.1 機能照明と演出照明を兼ね合わせた新しい照明ジャンルを確立
フィールド照明とは競技者が競技に集中して臨むために明るさや物の見え方などの条件を満足させる必要があり,審判や観戦者ならびにテレビ視聴者に対しても見やすさの配慮がされていなければならない。それはつまりフィールド照明とは従来,視環境を司る機能照明の意味合いが大きかったというわけである。
しかし本施設では,DMX制御方式のLED投光器を導入したことにより,高速で制御信号を送ることが可能となり,フィールド照明を演出用途としても活用した。合計570台のフィールド照明の明るさを0.1秒ごとに個別に変化させることができるため,図4のような動きのある演出が可能となっている。
このフィールド照明によりドーム空間の明るさを自在に操れるようになったことで,本施設の建築的な特徴となる単層ラチス構造の天井演出を効果的に行えるようになった。それに伴い,演出効果をよりいっそう高めるためフルカラー投光器を導入し,ドーム天井のカラー演出を可能にさせた。
フィールド照明による演出は,大光量を瞬時に細かく制御するため空間の見え方をダイナミックに変化させる。一方,ドーム天井演出照明は,カラー光の持つ心理的な影響や,チームカラーを使用することによる一体感の創出など感情に訴える演出が可能となる。
この2つを組合せることで,相乗効果をもたらし,ナゴヤドームでしか体験できないドラマティックな空間演出が実現可能となった。図5にドーム天井の照明演出例,図6にフィールド照明とドーム天井照明を組合せた演出例を示す。
プロ野球試合における照明演出は,プレーヤーへの影響を最優先とし,球団およびドーム施設の担当部署による監修のもと運用を行っている。改修後2シーズンが経過した現時点では,試合開始から終了まではフィールド照明の明るさを維持したまま,ホームランやイニング間などのプレーが中断するタイミングでドーム天井のカラー照明を変化させて演出を行っている。試合勝利後には,会場を暗転させてフィールド照明とドーム天井照明,そして音楽を組合せ,光の演出をメインに用いたショーを行っており,勝利を華やかに演出するとともに,会場が1つになって勝利の喜びを分かち合う,体験・体感型のイベントとなっている。
プロ野球試合で活用している照明演出は,同時に再生される音楽の曲調イメージやテンポに合わせてプログラムを作成しており,音と光がシンクロした臨場感と一体感のある演出を行っている。図7にプロ野球での演出例を示す。
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