掲載レポート
岩崎電気の促進耐候性試験機の開発動向とその特徴
月刊「塗装技術」2021年4月号掲載
製品開発のスピードUPを始めとして、材料の高耐久化や、コストダウン、環境保護のための材料変更など種々の理由で、材料の耐候性を早期に見たいというニーズはますます増えている。
それらの解決策として促進耐候性試験機の開発・製造が進められている。
本稿では、岩崎電気(株)で開発・製造を行っている促進耐候性試験機の開発動向とその特徴について記述する。
1. 当社の促進耐候性試験機の開発動向
当社は照明事業で培った光源開発技術を、紫外線などを用いた産業用用途に展開をしている。
紫外線硬化(印刷、コーティング)、殖版機などでの紫外線による露光、紫外線殺菌などである。
耐候性試験機への展開もその1つであった。
1984年には本邦初のメタルハライドランプ式の促進耐候性試験機を発売した。
これは、サンシャインウェザーやキセノンランプ式などの試験機と比較して10倍程度の強力な紫外線照度を備えた装置であり、これまでの促進耐候性試験に比べ10倍程度の促進性をUPしたことが特徴である。
当初は照射のみの単一サイクルで温度制御のみであったが、実環境の劣化との相関性を高めるために湿度制御の追加、複数の運転モードの導入(結露、休止(光照射なしでの温湿度制御))、シャワー噴霧の追加と有効照射面積の拡大、試験の再現性向上のための制御方法改善を進めてきた。
また、キセノンランプ式の促進耐候性試験機も2000年より販売を行い、以降もラインアップを増やしてきた。
それぞれのタイプの試験機と、新製品について次章より解説する。
2. SUV-W161、SUV-W261(メタルハライドランプ式)
(1)概要
当社では、メタルハライドランプ式の促進耐候性試験機を「アイ スーパーUVテスター」の名称で販売している。
現在のラインアップである試験機2種の装置外観を写真-1、2にそれぞれ示す。
メタルハライドランプは水銀をベースに鉄(ハロゲン化鉄)などを加え、水銀の輝線以外にも広範囲の紫外線波長が照射できるのが特徴である。
メタルハライドランプは水平点灯でないと、ランプ内に封入している金属がうまく拡散しないため、ランプを水平に設置し、その下に試料を配置する構造としている。
そのため、サンシャインウェザーや多くのキセノンランプ式とは異なり、試料を固定しての紫外線照射としており、試料固定式と呼ばれている。
紫外線照射に加えて、温度制御、サンプル表面への結露、シャワー噴霧を組合せることで促進劣化をさせる装置である。
紫外線照度は150mW/cm²(300~400nm域)で共通で、試料面積については、SUV-W161では幅422×奥行190mm、SUV-W261ではSUV-W161の約2倍の幅800×奥行200mmとなっている。
温度制御は、他の促進耐候性試験機と同様にブラックパネル(BP)温度計を用いている。
①メタルハライドランプ採用による強い紫外線照度
アイ スーパーUVテスター SUV-W161、SUV-W261は、太陽光の20~30倍の紫外線照度による高い促進性を持ちながら、フィルターにより地表面の太陽光に存在しない295nm以下をカットし、さらに可視光、赤外光もほぼカットすることにより、試料に余分な熱を与えない構造としている。
第1図にSUV-W161、SUV-W261のスペクトルを示す。
2機種のランプは、発光長違いで同じランプ負荷(定格:120W/cm)のものを採用している。
②多彩な試験モード
光照射、結露、休止、及びシャワー工程を組合せての試験が可能となっている。
連続照射試験で実環境劣化と異なる場合には、照射/結露、照射/休止など他の工程を組合せることにより、実環境の相関を高めることが可能である。
また、工程間にシャワーを入れることにより、試料よりアウトブリードしたものを洗い流すことができ、こちらも相関性を高めるために必要な機構である。
結露工程では、試料室内の加湿及び水冷試料台への通水による試料の表裏に温度差をつくることにより効率的に結露を発生させている。
第2図に、SUV-W161でのトレンドデータの一例を示す。
③照度の安定性・再現性
電子安定器採用により、入力電圧の変動があっても照度の安定が図られ、さらに自動照度モニター機構による照度制御で一定の照度での試験が可能である。
④ランプ・フィルターの動向
時代に応じて、ランプの紫外線発光効率を改善している。
現在のランプは、同一電力での紫外線照度を初期品と比較すると20%向上したものを採用している。
これにより、同一の試験でかかる電力費の削減に貢献している。
フィルターについては、従前は吸収タイプのガラスを使用していたが、RoHS規制の流れを受け、多層膜フィルター(反射で波長をカットする)に変更した。
吸収タイプのガラス時代はランプ交換と合わせてフィルターも交換する必要があったが、多層膜フィルターに変更後は、月1回の清掃で3年程度の使用が可能となっている。
写真-3にランプ外観を、写真-4に光学フィルターを示す。
⑤画面表示、現在のラインアップ
SUV-W261ではタッチパネルを大画面化し、試験条件の設定や各種モニター、トラブルシュートがわかりやすいものとなった。
なお、SUV-W261から性能は変更せずマイナーチェンジを行い、以降はSUV-W262を大面積タイプとして展開することとした。
3. XER-W83(キセノンランプ式)
2018年に、これまで販売してきたキセノンランプ式促進試験機「アイ スーパーキセノンテスター XER-W75」をリニューアルしXER-W83を上市した。
XER-W75でも採用されていた標準照度、強照度入れ替え可能な構造は継承しつつ、対応規格を増やしたモデルである。
写真-5にキセノンテスターXER-W83の外観を示す。
照度は強照度試料枠設置時で最大180W/m²であり、試料枚数は標準照度試料枠で108枚、強照度試料枠で54枚となっている(それぞれの試料枚数にはBP温度計を含む)。
前モデルからの軽量化を行っており、温湿度制御については、内部循環式での制御としたことにより、外気温による温湿度制御への影響を抑えた制御ができるようになった。
また、槽内同時温度制御、両面シャワーを追加することなどでJISK7350-2のA法サイクルNo.1、3及びB法のNo.5、71)や、SAEJ25272)などの試験が対応可能となった。
4. EYE SUN-CUBE® Xenon(アイ サンキューブ キセノン)
小型・安価な耐光性試験機として、2017年に上市した。
他の試験機と異なり、光照射のみの仕様である。
「EYE SUN-CUBE® Xenon」スペクトルを第3図に、外観を写真-6に示す。
50W/m²の照度をø100mmエリアに照射可能な装置である。
キセノンランプとフィルターの組合せで太陽光に近似したスペクトルとし、調光ボリウムで簡単に照度調整も可能である。
包装容器、ボトル、樹脂製品などの用途を想定している。
5. EYE 4D MULTI Chamber®(複合環境試験装置)
試験片だけではなく、実際の製品をまるごと試験できる装置が「EYE 4D MULTI Chamber®」である。
当社内に受託試験用として製作した装置の外観を写真-7に示す。
温度範囲は-40℃から150℃と幅広く、ランプは2面(天井面と側面)設置可能である。
試験槽と光源部を別筐体(きょうたい)としており、光源を選択できる仕様となっている。
選択可能な光源は、紫外線メタルハライドランプ、ハロゲンランプ、太陽光を近似した日射用メタルハライドランプなどである。
委託試験では、UVテスターで使用している紫外線メタルハライドランプを用いた照射試験の利用が主となっている。
紫外線メタルハライドランプを設置した場合、一例として100mW/cm²(300~400nm域)で1400×1100mmエリアの照射が可能である。
タイヤ、車両用シート、自動車サンルーフなどは、そのまま試験が行える。
6. 新製品について
(1)XER-W83-A(XER-W83 ASTM D7869対応)
XER-W83について、対応規格をさらに増やすべく、ASTM D7869 Standard Practice for Xenon Arc Exposure Test with Enhanced Light and Water Exposure for Transportation Coatings(車両のコーティング剤に対する耐候性規格)3)の試験が可能なモデルを新たにラインアップした。
XER-W83からの主な変更点は次の通りである。
①新規フィルターの開発
より太陽光のスペクトルに近似したASTM D7869に対応するため、新規フィルターを開発し、石英ガラスフィルターとの組合せ(インナー、新規フィルター、アウターの3種)で規格に合致するスペクトルを実現した。
第4図にスペクトル測定例を示す。
使用時間によるスペクトルのズレが少ないフィルターとなっている。
②温湿度の制御改善
温湿度の条件が短い時間で変わることに対応するため、温湿度制御を改善し、より早く、正確に設定温度への到達を実現した。
③中照度試料枠
ASTM D7869では0.8W/m²(340nm域)の照度が必要であり、これは94W/m²(300~400nm域)に相当する。
既存の標準照度枠、強照度枠では非効率的な照度値となるため、新たにXER-W83-Aでは、試料枚数90枚(BP温度計含む)が設置可能な中照度試料枠とした。
④タッチパネル大画面化
10.4インチの大画面タッチパネルを搭載し、1画面により多くの情報を無理なく表示し、少ない画面切り替えで必要な情報を確認が可能である。
D7869試験時のサイクル表示画面を第5図に示す。
⑤ログデータ閲覧機能を強化
タッチパネル上でUSBメモリーに保管された過去データの閲覧が可能であり、数年間のログデータをストレスなく読み出し、確認することが可能となった。
第6図にログデータの表示例を示す。
また、タッチパネル上に操作ガイドを採用し、不慣れなオペレーターでも定期的な照度校正などのメンテナンスを簡単に実施することができる。
(2)SUV-W161-VIS(可視光対応)
メタルハライドランプ式試験機おいて、紫外線のみだけでなく、紫外線+可視光の光を照射できる装置を新たにラインアップした。
第7図に現行機種と今回開発した紫外線+可視光タイプのスペクトル測定例を示す。
これにより、色物の評価などで選択肢が広がる。
照度は最大150mW/cm²(300~400nm域)、ワーク設置エリアは396×190mmである。
(3)UV-C(254nm)照射試験サービス
コロナ禍でUV-C除菌を謳った製品が多く出回るようになった。
それらの製品で除菌される物品(スマートフォン及びそのケースやパスケース、筆記具、タブレットなど)やその材料についても、UV-C耐久性を評価する必要性が増している。
そのため、当社ではUV-C(254nm)照射試験サービスを行っている4)。
写真-8にUV-C照射の様子を示す。
低圧水銀ランプ(主波長:254nm)の照射試験を行うことが可能であり、今後はニーズによってUV-LEDでの照射なども検討する予定である。
注)左右クリア部:スマホケース、中央の白部:Felicaカード。
7. 試験データ
メラミン塗装(黒)の屋外暴露(宮古島・南面45°)、キセノンランプ式(XER-W83-60W/m²、XER-180W/m²)、メタルハライドランプ式(SUV-W261)の試験機種別の色差の例を第8図に、光沢保持率の例を第9図に示す。
横軸は対数としており、試験機種による促進倍率がメタルハライド > キセノンランプ(180W/m²) > キセノンランプ(60W/m²) > 屋外暴露となっており、光源別で見ると1桁ずつの差異となっている。
8. 規格動向・今後
メタルハライドランプ式の試験機はこれまで公的な試験規格がなかったが、2018年より樹脂窓の耐候性試験法についてJIS化の検討及び原案作成を進め、2020年12月にJIS原案を塩ビ工業・環境協会が主催し、試験機メーカーも協力し、とりまとめた。
近々、JISとして制定予定である。
樹脂窓の規格化の後には、他の材料についてもメタハラの規格化を進めていきたい。
参考文献
- 1) JISK7350-2プラスチック-実験室光源による暴露試験方法-第2部-キセノンアークランプ
- 2) SAE J2527 Performance Based Standard for Accelerated Exposure of Automotive Exterior Materials Using a Controlled Irradiance Xenon-Arc Apparatus
- 3) ASTM D7869-17 Standard Practice for Xenon Arc Exposure Test with Enhanced Light and Water Exposure for Transportation Coatings
- 4) UV-C(254nm)照射試験サービスのご案内
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