創造人×話
迷いを断ち切るかたちに魅力を感じながら、折り紙をモチーフにした木彫彩色作品をつくり続けています。
白谷 琢磨さん彫刻家
今回は彫刻家の白谷琢磨さんをご紹介いたします。
2021年に東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻を修了された白谷さんは、在学中に若手アーティストの登竜門である立体アートコンペ「アート・ミーツ・アーキテクチャー・コンペティション(AAC)」2019で最優秀賞を受賞されるなど、早くからその才能が高く評価されています。
現在は折り紙をモチーフとした木彫の彫刻作品の数々を発表され、美術界で注目を集める気鋭の彫刻家として活躍されています。
はじめに、白谷さんが彫刻家としての道を歩まれるようになった経緯からお聞かせください。

幼少期から砂場遊びや工作が好きな子どもで、小学校高学年の頃には、美術大学への進学を目指すようになったと記憶しています。高校も芸術科のある学校に行き、手を動かして立体的に何かをつくる方が好きだし、自分に合っているのではとの考えから東京藝術大学彫刻科に進学しました。大学では、カリキュラムに沿って実技実習を行い、木材や石、粘土、金属、漆などいろいろな素材を扱って作品づくりに取り組みました。
木材には赤身、白身(白太)という呼び方がありますが、まるで動物の肉のようなイメージを持つことがあります。それになぞらえるのならばウルシの木の樹液である漆は血液なのではないかと思ったりして、それぞれの素材の持つ意味合いを作品に取り入れられないかと模索していました。
学部に在学中より彫刻家の工房でアシスタントをさせていただき、卒業後も続けていましたが、2023年9月に独立し、若輩ながら彫刻家として歩み出しました。


一見すると大きな紙で作られた折り紙の作品のように見える白谷さんの木彫りの彫刻作品は、凛とした佇まいがとても独特で、拝見しているうちに不思議と神聖な気持ちになります。白谷さんの現在の作風はどのようにして生まれたのでしょうか。

私は、常々日本伝承の折り紙が持つシンプルかつ軽やかで、洗練されたフォルムに魅力を感じていました。ただ、紙という素材の性質上、そのかたちを大きくしたり永く保存したりすることはなかなかかないません。そこで、檜や漆、岩絵の具など日本に古くから伝わる伝統的な素材を用いて木彫りでつくることで、未来へと続く折り紙をモチーフにした新しい彫刻のかたちが生まれるのではないかと考えたのが、現在の作品づくりの始まりだったと思います。学生時代よりお世話になった彫刻家の工房で仏像彫刻に携わり、仏像をつくるプロジェクトに参加する機会に恵まれたこともあり、そのときに学んだ技法をいかして作品をつくり続けています。
仏像彫刻の工法である寄せ木造を用いて木を彫ってつくられているのは、その経験がいかされているのですね。木彫りでつくられた白谷さんの折り紙の彫刻に、神秘的な精神性を感じるのは当然なのかもしれません。作品に込める想いについて少しお教えください。

紙を折ることで特定の生き物や生活道具などを連想させる折り紙には、日本特有の見立てという文化が感じられます。たとえばお盆の時期に、きゅうりやなすに割り箸や爪楊枝を指して馬や牛に見立て、ご先祖さまの霊を乗せる精霊馬とするように、仮の姿を表現できる折り紙は、単に動植物を想起させるだけではなく、ある意味で異世界にまで意識を飛ばすことができる特別な存在なのではないかと考えます。私は、紙を折ることと木を彫ることはどちらも祈りに通じる行為であるとの想いから、神仏に対するイメージと重ね合わせながら、仏像を彫るような真摯な姿勢で木彫りの作品づくりに向き合い、折り紙のモチーフを通じて神聖な空気感を表現することを大切にしています。
2024年には個展や展示会を開催され、今年も個展の開催を予定されているほか、大型作品づくりにも挑戦されたとお聞きしました。
昨年は馬をモチーフにした実寸大の折り紙の木彫作品を制作しました。少しずつ制作していたので時間はかかりましたが、大型の作品づくりはとても楽しく、スケールの違いで見えてくることもあり、やりがいを感じながらつくりました。この作品は、マンションブランドBrilliaが実施している「Brillia Art Award 2024」に入選し、今年1月より約3か月間、東京・八重洲にある東京建物本社ギャラリーで展示中です。
作品をつくるうえで大切にしていらっしゃることは何でしょうか。
折り紙の持つシンボリックさと力強さを感じていただける木彫作品をつくるのと同時に、軽やかさも大切にしています。木彫りと言っても、たとえば彫刻材に楠を使用すれば重厚感のある作品になりますが、私は素材として檜を用いることで、折り紙にも通じる軽さや繊細さを感じられる作品をつくっています。また、作品づくりにおいては、迷いを断ち切る造形を目指しています。
細部に至るまで神経を使って彫ることで作品の持つ雰囲気や空気感に変化が出るということを、私は仏像彫刻から学びました。この教えを念頭に置きながら完璧なかたちやバランスを求めているように思います。折り紙の持つ法則性や、面と線の構成が織りなす構造は非常に興味深く、その緊張感を作品に反映させることで、人々に訴えかけるような彫刻をつくり続けていきたいと考えています。

2024年10月に銀座のSEIZAN GALLERY TOKYO凸で開催された「白谷琢磨―祷鶴―」では、白く小さな部屋に展示された赤い木彫りの折り鶴が羽を広げ、天を仰ぐ姿が非常に印象的でした。照明で陰影ができ、より立体感が際立っていたように感じます。どのような気持ちで制作された作品なのでしょうか。

折り鶴は、千羽鶴に代表されるように、日本人にとってとても馴染みの深い存在で、そこにはさまざまな願いが込められており、初めは制作するのをためらっていました。それでも、彫刻家としてできることを考えた際に、鶴をモチーフにした作品のコンセプトに被災地支援を組み込み、作品の売り上げの一部を復興支援金として寄付することに意味を見出し、作品をつくることにしたのです。
天を仰ぐ鶴の姿は折り紙では本来再現できないポーズで、未来へと続く祈りに昇華させた見立ての世界を楽しんでいただきたいという気持ちで制作いたしました。この作品もそうですが、ライティングはとても重要だと考えており、将来的には完璧なライティングを施した作品の数々を揃えた個展を開催できたら嬉しいですね。
私はまた、作品を撮影していただくことにも重きを置いているのですが、美術写真家の方に撮影してもらう度に、折り紙木彫作品のシルエットやエッジをより効果的に際立たせ、神秘的に魅せてくれるプロフェッショナルな仕上がりに感動しています。
今後の展望についてお教えください。

白谷 これからも迷いを断ち切るかたちを追求することで、人に訴えかけられる作品ができると信じて、奥行きや余白を持たせた表現が可能な折り紙の木彫作品をつくり続けていきたいと思います。動物をモチーフにしたシリーズは、分かりやすさに通じますし、干支は全てつくるつもりですが、これにとどまらず、よりコンセプチュアルな作品にも挑戦したいと考えています。
作品写真撮影:NAOKI morita(Studio Jugaad)
白谷 琢磨(しらたに たくま)
- 1994
- 佐賀県生まれ
- 2019
- 東京藝術大学美術学部彫刻科卒業
- 2021
- 東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了
〈個展〉
- 2024
- 「HORI ORI INORI」ギャラリーマルヒ
「白谷琢磨―祷鶴―」SEIZAN GALLERY TOKYO凸 - 2025
- 「Takuma Shiratani Solo Exhibition UMA」DiEGO表参道
〈受賞歴〉
- 2019
- 第19回アート・ミーツ・アーキテクチャー・コンペティション(AAC2019)最優秀賞
- 2024
- 千葉県アーティストフォローアップ事業伴走型採択
「Brillia Art Award 2024」入選