創造人×話

役割を終えた廃材を使って新たな生きものに生まれ変わらせたいという思いを持って作品をつくり続けています。

富田 菜摘さん現代美術家

今回は現代美術家の富田菜摘さんをご紹介いたします。身近にある廃材を素材にした表情豊かで愛らしい動物たちの作品や、新聞・雑誌の切り抜きを使った人物作品を個展やグループ展で発表する傍ら、ミュージックビデオのアートワークや店舗、TV番組のディスプレイなど多方面で活躍されている富田さんは、アートコレクターや美術館はもちろん、子どもから大人まで幅広い層に人気の注目アーティストです。

富田さんが日用品や電子機器、自転車の部品など、さまざまな廃材を使って制作されている動物たちは躍動感にあふれています。どこかユーモラスな表情がとても魅力的で、こんなところにこんなものが使ってあるという発見の楽しさもありますね。廃材を素材に制作を始めたきっかけからお教えください

左から
「トリル」2023年 ミクストメディア、金属廃材 116.0×63.0×180.0cm
「サウロ」2023年 ミクストメディア、金属廃材 103.0×40.0×90.0cm
「ブランドン」2023年 ミクストメディア、金属廃材 217.0×80.0×202.0cm

高校3年生の時、美大受験に備えて通っていた予備校で文化祭があり、自分で好きなものを制作することになりました。その頃ガラパゴス諸島に興味をもっていた私は、そこに生息するウミイグアナをつくろうと思い立ちました。そして、素材自体に意味のあるものを求めてひらめいたのが、街に捨てられていた廃品です。

「鉄兵」2004年 ミクストメディア、金属廃材
52.0×132.0×273.0cm

こうして生まれたのが廃材を使った最初の作品「鉄兵」(ウミイグアナ)で、これが現在まで続く廃材による動物制作の始まりとなりました。大学は多摩美術大学の絵画学科油画専攻に進学したのですが、廃材を使った立体作品の面白さに夢中になり、油彩画を描かずに立体ばかりつくっていました。大自然を象徴する生きものに対して、都市の廃材は対極の存在にあり、自分なりの環境へのメッセージを込めたいと思って制作しました。

富田さんは大学在学中に初個展を開催され、卒業後はさまざまなギャラリーや美術館での個展やグループ展で作品を発表し続けていらっしゃいます。廃材という素材の持つ魅力についてお聞かせください。

顔からつくり始めるという作品たちは、一つひとつ表情豊かで愛らしい
左:「ティル」2023年 ミクストメディア、金属廃材 34.0×17.0×43.0cm
右:「ティナ」2023年 ミクストメディア、金属廃材 26.0×21.0×50.0cm

廃材の一つひとつにはそれまでたどってきた歴史があり、錆(さび)や褪せた色などに刻まれた素材の持つ物語に魅力を感じています。誰かが使っていた痕跡がある廃材を使ってつくることで、新品にはない風合いや、生きものとしての温もりが感じられる作品づくりにつながっているのではないかと思います。一度役割を終えた廃材を集めて、それらをつなぎ合わせ、また新しく生きものとして生まれ変わらせる制作過程はとても楽しいです。出来上がった作品には全て名前を付けて、自分の子どものように愛着をもっています。

約5億年前に生息していたとされるアノマロカリスをモチーフにした「アマロ」は、壁に映った影もユーモラス
2023年 ミクストメディア、金属廃材 11.0×26.0×36.0cm

近年では、個展にいらした方など作品を通して知り合った皆さまから、古くなったフライパンや時計など、思い出の品々を譲っていただくことも多くなり、廃材ストックの種類が増えて作品の幅も広がっています。扇風機やスマートフォンなど、時代とともに変化していくもののかたちを作品に取り入れていますので、同じ作品を見ても、例えばそこに使われている受話器が懐かしかったり新鮮だったりと、その人によって感じ方が異なるのも面白いと考えています。

作品は設計図を基に制作されるのでしょうか。

設計図は書かず、どの作品も顔からつくり始め、つくりながらかたちを考えていく手法をとっています。キリンや恐竜などの大きな作品は、足元から始めた方が造形的にはつくりやすいのかもしれませんが、まず顔をつくることで表情や、その生きものたちのキャラクターを感じられるようになってくるのです。そして、それに合わせて体の動きや大きさ、かたち、色などを決めていき、ストックしてある廃材からぴったりと合う最適な素材を選びます。時には素材から思いがけないかたちが生まれることもあり、そうした偶然性も楽しみながら制作しています。

「さんざん待たせてごめんなさい」2008/2010/2011年 ミクストメディア、新聞、雑誌 182.0×160.0×450.0cm(可変)

昨年の春には、コロナ禍の新聞記事を用いて制作された人物像の新作個展を開催されたそうですね。

「日常に非ず」作品群
手前:「日常に非ず 1」19.0×36.0×57.0cm
奥左:「日常に非ず 5」8.0×20.0×22.0cm
奥中:「日常に非ず 6」18.0×27.0×.026cm
奥右:「日常に非ず 4」28.0×39.0×26.0cm
全て2022年 ミクストメディア、新聞紙

「日常に非ず」と名付けた作品群で、コロナ禍という経験したことのない非日常の中で人との距離を取ることを余儀なくされた日々が続き、身動きがとれない沼にいるような人々の姿を表現したものです。2020年から2023年の新聞記事で制作し、2023年4月に開催した個展『日常に非ず』で発表しました。突然現れた非日常に戸惑いながらも、徐々に受け入れて日常を取り戻していく人々の逞しさを作品にしたいと思い制作しました。

廃材を使った動物の作品づくりとともに続けていらっしゃる、新聞や雑誌の切り抜きを使った人物作品についてもお聞かせください。

人物シリーズについては、美大の卒業制作で「さんざん待たせてごめんなさい」というタイトルの等身大人物像が列をなす作品を制作して以来、続けている造形スタイルです。日々変化し移り変わっていく社会情勢や流行を表すメディアである新聞や雑誌の切り抜きを使って人物像をつくり、その時々の“今”を表現しています。サラリーマンや主婦、女子高生など、その人物を象徴する記事を貼り重ねることで風刺を効かせています。私はまた、“他人の集団”にも興味があります。電車の中で全く知らない人同士、肩が触れ合う距離にいるのにお互いを気にせずに携帯を見たり、それぞれが自分の世界に入っている光景は不思議な空間だと感じ、度々作品のテーマとしてきました。自分自身もその他人の集団の一部なので、親近感もあって、興味深く取り組んでいるテーマのひとつになっています。人物作品は時代性を大事にして制作しているので、今後もその時の“今”を象徴するような人物像をつくり続け、時代の変化を作品として残していきたいと思っています。

「いのちの木」2019年 ミクストメディア、金属廃材 370.0×900.0×50.0cm

魅力あふれる動物たちや人物像の制作のほかにも、大阪・梅田地下街ホワイティうめだに設置されているパブリックアート「いのちの木」や著名ロックバンドの30周年記念オブジェの作品提供など、幅広く活躍されていらっしゃる富田さんの今後の抱負についてお聞かせください。

「かぼちゃのランプ」1998年 カボチャ紙、針金 18.0×19.0×15.0cm

これからも、その時々でつくりたいものをストレートに表現することを続けていきたいです。「続けていく」ということは、シンプルなようでとても難しく、一番大切なことだと思っています。考えてみると幼い頃からものづくりが好きで、小学生の時にカボチャの繊維から紙を漉いて、その紙でカボチャ形のランプをつくって東急ハンズ(当時)主催のものづくりコンテスト ハンズ大賞に応募し入選したこともありました。

「ブランドン」の隣に並ぶ富田菜摘さん
2023年10月に新宿髙島屋美術画廊で開催された『富田菜摘展 ONCE UPON A TIME』会場にて

今やっていることは、その延長上にあるような気もしますし、何を素材に使うかということにこだわりを持つ、私の制作スタイルの原点になっているのかもしれません。これから年を重ね、自分自身も変化しますし、動物作品に使用している素材の形や、人物作品のテーマとなる時代もどんどん変化していくと思います。そういった変化を受け入れ、楽しみながら、その時に自分がベストだと思う作品をつくり続けていきたいと思います。

富田 菜摘(とみた なつみ)

1986年 東京生まれ
2009年 多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業
金属廃材の動物作品や、新聞紙や雑誌を素材にした人物作品など、身近な素材を用いてユニークな作品を制作。
中村屋サロン美術館、ヤマザキマザック美術館、新宿髙島屋、Bunkamura Galleryをはじめ、シンガポール、香港など、国内外で個展を多数開催。また、浜田市世界こども美術館、越後妻有アートトリエンナーレなど多くのグループ展で作品を発表。
各地でワークショップを開催。病院やTVスタジオへの作品設置、パブリックアート、行政や企業とのコラボレーションなど、多方面で活動。