創造人×話
光のエネルギーが透過された時に起こるガラスのリアクションを楽しめる作品づくりに取り組んでいます。
並木 亮太さんガラス作家・万華鏡作家
今回は、ガラス作家・万華鏡作家の並木亮太さんをご紹介いたします。「GLASS STUDIO しなぷす」を主宰されている並木さんは、吹きガラスなどの豊富な経験を基に、酸素バーナーワークを駆使して、万華鏡、ガラスペン、オブジェなどを制作していらっしゃいます。万華鏡の制作を本格的に始めてわずか1年も経たずして挑戦した万華鏡の公募展で最優秀賞を受賞されるなど、アーティストとしての感性と確かな技術を持ち合わせたガラス作家として注目されています。
ガラス作家として活動を続けていらっしゃる並木さんは、見る人を幻想の世界へと誘うアーティスティックな万華鏡や、文房具好きの方々に人気の高いガラスペンなどを制作され、これからますますの活躍が期待されるガラス作家として注目を集めています。やはり幼いときからクリエイティブなことにご興味をお持ちだったのでしょうか。
私は祖父が油彩画家、父が日本画家という家庭環境で育ち、小さな頃から身の回りには絵画や美術書、さまざまな色彩の絵具などが溢れていたこともあり、自然とものづくりが好きな子どもになったように思います。絵画教室でクレヨンや水彩画を習ったりして、遊びながら絵を描くことがとても楽しかったことを覚えています。
ガラス作家という道を選択された理由についてお教えください。
祖父や父の背中を見て、自分自身も将来はクリエイティブな世界に身を置きたいと考えていましたので、デザイン科のある高校に通い、大学は多摩美術大学の工芸学科ガラスプログラムに進みました。進路を考えるにあたり、デッサンや粘土は美大入試時に十分に触れた感じがあって、未知の素材を模索していた時にガラスの持つ魅力に気がつきました。
祖父や父の背中を見て、自分自身も将来はクリエイティブな世界に身を置きたいと考えていましたので、デザイン科のある高校に通い、大学は多摩美術大学の工芸学科ガラスプログラムに進みました。進路を考えるにあたり、デッサンや粘土は美大入試時に十分に触れた感じがあって、未知の素材を模索していた時にガラスの持つ魅力に気がつきました。
並木さんは「GLASS STUDIO しなぷす」を開設され、現在は酸素バーナーワークを中心とする制作活動を続けていらっしゃいますね。
あずみ野ガラス工房では、吹きガラスの幅広い表現方法にチャレンジすることができ、とても良い経験となったと同時に学ぶことの多い時間を過ごしました。一方で、私は独立して制作活動を行いたいと以前から思っていましたので、自分のペースでできる技法として、酸素バーナーワークでの制作に取り組んでみようと思うようになりました。そして、理化学製品会社や複数のガラス 工房でその技術を学んだ後、2017年に「GLASS STUDIO しなぷす」を開設しました。
「しなぷす(Synapse)」とは、神経細胞が情報を伝達する器官のような物です。アイデアを生み出す閃きや、制作する時の指先の感覚、またガラスを通して多くの人々や社会と繋がりを持っていけるように願いを込めて名付けました。
約2000度の炎を出す酸素バーナーを使い、ガラスを成形していく酸素バーナーワークは、ガラスの成形技法の一つで、ビーカーやフラスコなどの理化学容器や耐熱ガラス食器の素材として知られるボロシリケイトガラス(耐熱ガラス)を使用します。棒状や筒状など形やサイズも豊富で、透明度が高くて丈夫なため工芸の素材に適しており、作品の可能性も広がることが利点だと考えています。また、吹きガラス、ステンドガラス、ガラス研磨などを行っていた経験をいかし、複数の技法を合わせた作品もつくっています。そして、ガラスの持つ輝きや景色を映す美しさを大切にしながら、作品一つひとつに物語を込めて制作しています。
酸素バーナーワークを駆使して、万華鏡を制作していらっしゃる並木さんの作品についてお聞かせください。
万華鏡については、以前からお世話になっている万華鏡作家のご夫婦からバーナーワークについてのご相談を受けたことをきっかけに興味を持つようになり、その方々に教えていただきながら自分自身で制作を始めました。オブジェクト(万華鏡で見る模様の元となるパーツ)とミラー、そしてボディからなる万華鏡は、光の反射で無限の変化を楽しむことができ、ガラスの美しさを最大限にいかす表現方法の一つだと考えています。
構造自体はシンプルですが多くの工程があり、すべての工程にこだわりを持って、手作業で進めていくことに面白さを感じています。数ミリ単位のパーツを組み合わせることで、微妙な形状の違いによって反射や重なり合い方が変わり、時には狙いを超えた偶然もあったりして、とても奥深い世界だと感じています。
私はパーツには多彩な色彩のボロシリケイトガラスを使用し、滑らかな動きが出せるオイル万華鏡も多く制作しており、筒状の万華鏡自体とボディに酸素バーナーワークで装飾を施して一つの作品に仕上げています。幸運なことに、デビュー作となった作品は、Bunkamura 30周年記念 万華鏡2019 第一回全国公募展で最優秀賞をいただき、翌年度の万華鏡展2020では、ポスターのメインビジュアルとして、木とガラスを使い大砲をモチーフにした作品を採用していただく機会に恵まれました。
万華鏡はもちろん、並木さんの制作されるガラスペンもとても人気が高いとお聞きしています。
ガラスペンは、ペン先の側面に細かい溝を入れ、そのペン先をインクに浸して筆記をするつけペンの一種です。ガラス特有の透明感と繊細な美しさに加え、使い方や手入れも簡単なので、近年特に文具好きの方々の間で人気を集めています。筆記具としての実用性とデザインを両立させることは、ある意味大変ではありますが面白さもあり、ハンドメイドならではの温もりを感じていただける作品をつくっています。今春は(株)PARCOさまからご依頼をいただき、PARCO × FINAL FANTASY※ コラボ企画による30本限定のガラスペンを制作いたしました。『FINAL FANTASY X※』の主人公ティーダの武器「フラタニティ」をモチーフにしたガラスペンは販売開始後30分ほどで完売したとお聞きし、とてもありがたく思っています。
今後の展望について少しお聞かせください。
工芸の世界はとても幅が広く、アートとデザインの中間に位置し、どこに着地点を求めるのか作品ごとに変わる面白さがあると思います。私が思うアートとデザインの違いを簡単に言えば、自己表現をするのがアートで、第三者のために作るのがデザインです。そして、その両方を行うのが工芸だと考えています。私にとって、万華鏡はアート寄りの工芸、ガラスペンはデザイン寄りの工芸だと捉えており、そのどちらにもやりがいを感じています。
制作内容で言えば、デザインや造形を考え、それらをアウトプットして形にしていくというクリエイティブな仕事。また、数百個単位で制作する際には、最適な手法でいかに無駄を省きながら同じ作業を続け精度を高めていく職人の仕事。その両方のアプローチが好きなので、これからも新しいものづくりを模索しながらガラスに向き合うことを楽しんでいきたいと考えています。ガラスは透過する素材であり、光のエネルギーが透過された時にリアクションを起こします。そのリアクションを偶然の中から見つけ出して、それらをいかす表現をしていけたら嬉しいです。
並木 亮太(なみき りょうた)
- 1986
- 神奈川県生まれ
- 2012
- 多摩美術大学美術学部工芸学科ガラスプログラム専攻卒業
- 2012
- (一社)豊科開発公社 あづみ野ガラス工房勤務(吹き硝子)
- 2015
- 酸素バーナーワークを始める
- 2017
- 「GLASS STUDIO しなぷす」神奈川県藤沢市に開設
- 2019
- Bunkamura 30周年記念 万華鏡2019 第一回全国公募展 最優秀賞受賞
- 2022
- 藤沢市・韓国保寧市姉妹都市提携20周年記念品 作成
- 2023
- PARCO × FINAL FANTASY 35th ANNIVERSARY企画 「FINAL FANTASY X ガラスペン」制作
展示歴
東京、神奈川を中心に、百貨店、ギャラリーなど、多数展示会に参加
ガラスペン取扱文具店多数
- ※© SQUARE ENIX
- ※「FINAL FANTASY X ガラスペン」は、PARCO × FINAL FANTASY 35th ANNIVERSARY コラボレーションアイテムです。すでに、製造・販売を終了しております。