創造人×話

身近な素材から生まれたオブジェに光を当てると浮かび上がる影アートを多くの方に楽しんでいただきたいです。

佐藤 江未さん影アーティスト、舞台照明家

今回は、影アーティストの佐藤江未さんをご紹介します。舞台照明の仕事もしている佐藤さんがつくり出すのは、光を当てると浮かび上がる不思議な影アートの世界です。国内における第一人者として活動を続ける佐藤さんは、テレビや新聞などのメディアで紹介されることも多く、さまざまな素材でつくられたオブジェに一定の方向から光を照射することで生み出される影アートのクオリティの高さに驚かされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。見る人を驚きと感動の世界に誘ってくれる佐藤さんにお話を伺います。

Pride of Bag Closures: Type Free / 2021年個展「Pride of Materials あつまるとつよい」

はじめに、佐藤さんが影アートに出会うまでの道のりをお聞かせください。

私は小さな頃から特にアートへの興味があったわけではなく、何となく学校を卒業したら普通に就職して暮らしていくのだろうというイメージで学生生活を送っていました。ところが、高校生の時に舞台を見に行ったらすごく感動して、それからいろいろな舞台を見に行くようになり、舞台をつくる仕事、特に舞台照明に心惹かれました。それで、短大卒業後は舞台照明の会社に就職しました。その後一度は辞めて他の仕事もしたのですが、再び舞台照明の仕事に戻り、現在に至ります。

影アートは、ある時海外のアーティストの作品を見て、興味本位で試しにつくったことが始まりですが、その時は数作品をつくってみただけでした。

本格的に影アートを始められたのには何か理由があるのでしょうか。

26歳の時から海外旅行に行き始め、とても刺激を受けました。旅先でたくさんの舞台を見て、日本と同じ照明機材を使っていても見せ方が全然違うことに感銘を受け、文化の違いを感じるとともに、自分はその文化を手に入れることはできなくても疑似体験はできるのではないかと思ったのです。

Pride of Magnets: Type Parasol / 2021年個展「Pride of Materials あつまるとつよい」

その後20代最後の時に、ワーキングホリデーに行くのなら今しかないと考えて行動に移し、カナダのモントリオールに約1年間滞在しました。語学の課題もあり英語圏であるカナダを選んだのですが、モントリオールは、シルク・ドゥ・ソレイユが生まれた地でもあり、芸術文化が根付いている場所でした。思ったよりもフランス語を話す人が多くて苦労はしたものの、非常に学ぶことが多い時間を過ごすことができました。

滞在中は、何とか日本の良さや自分をアピールしたいと思い、その一つとして、現地で出会った尊敬する舞台照明家の方に影アートの話をしたら、「影アートは舞台照明にも生かせるし、これからもぜひ挑戦し続けたら良いのでは」という言葉をいただきました。その言葉に勇気をもらい、帰国してから少しずつ作品をつくり始め、舞台に使ってもらえる機会があったり、周囲からの反応も予想以上に良かったりして、本格的に取り組むようになりました。

Pride of T-packages: type N.O / 2021年個展「Pride of Materials あつまるとつよい」
Lost and Found Series NO.5 / 2020年個展「Lost and Found おとしもの」

影アートの面白さについて教えてください。

最初に独学で始めたときは、素材の固定の仕方一つをとっても、ボンドやグルーガン、エポキシ樹脂などいろいろ使ってみながら試行錯誤を繰り返して、徐々に今のかたちに辿り着きました。作品をつくる時は、最初に素材をみつけて、そこから影絵になる部分を考えています。そして、その素材からどんな影が出来たら面白いかを探っていきます。個展を開催する際には先にテーマを決めて作品をつくります。

たとえば「Lost and Found おとしもの」では、電車内の忘れ物やフリーマーケットで手に入れた物、舞台で使われた美術セットの一部など、かつては誰かに必要とされていたけれど、今は不必要になったモノたちを集めて、「おとしもの」と称し、再びスポットを当てた作品をつくりました。また、一見すると何かわからない不思議なオブジェと、光で映し出される影とのギャップが大きいほど意外性があって面白いのでは、と考えています。

種をまく人 (懐中電灯で浮かび上がる影アート)

私の作品をご覧になる方が、最初は何だろう?と思い、その後で浮かび上がる影アートに驚いてくださると嬉しいので、あえて分かりにくいように素材を配置するなど、距離や角度を含め、こだわりを持って取り組んでいます。また、私の影アートは人物をモチーフにした作品が多いのですが、それは人が浮かび上がることで、ご覧になる方がそこに自由にストーリーを感じ、想像力を膨らませていただけるのでは、と思うからです。

パンの袋を留めるクリップを素材にして、ドラクロワの絵画「民衆を導く自由の女神」の一部を表現されている作品など、佐藤さんがつくり出す影アートには本当に驚かされます。舞台照明家である佐藤さんならではの光の使い方がありそうですね。

影アートは、基本的にLEDを光源に使用しており、秋葉原の電気街を回って部品を買い、自作することもあります。ただ、複数粒のLEDモジュールでは多重影が出てしまい、浮かび上がる影アートのクオリティに大きく影響してしまうという課題があります。今後はもっと大きなサイズの作品をつくりたいと思っていて、そのためには、1つの光源で広角配光かつ明るいライトが必要になってくるのですが、なかなか見つけられずにいるので、常に何か良いものはないかと探しています。

光源として主に使用しているLEDパーツ
夜? / 2022年個展「TWISTED ひねくれモノ」

最後に、これから佐藤さんが挑戦したいことについてお教えください。

「BOTANIST」ブランドムービー提供作品 (懐中電灯で浮かび上がる影アート)

挑戦したいことはたくさんあって、課題でもある光源の問題をクリアして、これまでにない大きなサイズの作品をつくりたいと思っていますし、もっと影アートの世界を探求して、海外の方々にも楽しんでいただける機会をつくっていきたいです。また、舞台照明の仕事にもやりがいを感じていますので、照明プランを担当しつつ影アートを使った舞台作品にも挑戦したいですね。最初の個展から、これまで20以上のテレビや新聞、ウェブメディアに取り上げていただき、展示の機会も個人でやる個展だけではなく、美術館やイベント会場にも広がってきていて、おかげさまで作品を見ていただく機会も増えてきました。これからも新たな視点を発見できる体験型の影アート作品をつくり続け、たくさんの方々に楽しんでいただけると嬉しいです。
作品写真提供:佐藤江未さま

佐藤 江未(さとう えみ)

2020年から本格的に光を当てると浮かび上がる影アート製作を始める。廃棄物や身近な素材などから影アートを作り出す。これまで、3回の個展を開催。落とし物、忘れ物、かつては誰かの所有物だったものを素材として製作した「Lost and Found おとしもの」(2020)、注目されない身近な素材を、その素材ごとで作品を製作した「Pride of Materials あつまるとつよい」(2021)、光を当てる前と後で違った印象のひねくれた言葉やモノが浮かび上がる「TWISTED ひねくれモノ」(2022)。「BOTANIST」ブランドムービー、舞台「六番目の小夜子」などにも作品提供。

※「BOTANIST」は株式会社I-ne(アイエヌイー)の登録商標です。