創造人×話

人の心に寄り添う作品をつくることで書の持つ魅力を伝えていきたいと考えています。

中塚 翠涛さん書家

今回は、書家として、また空間を書でデザインする空間カリグラフィーデザイナーとして、国内外で幅広く活躍されている、中塚翠涛さんをご紹介します。中塚さんはテレビ・ラジオや雑誌への出演も多く、著書「30日できれいな字が書けるペン字練習帳」(宝島社)シリーズは累計320万部を突破するベストセラーシリーズとなるなど、人気の高い気鋭の女性書家です。

2010 汐留「TOKI展」

書家という既成概念にとらわれず、多彩なフィールドでしなやかに活動を続けていらっしゃる中塚さんですが、まず始めに、書道を始められたきっかけからお聞かせください。

4歳の頃、兄が通っていた書道教室について行き、筆遊びをして褒めてもらい嬉しかったことが最初のきっかけでした。硬筆のペンや色鉛筆にはない、筆ならではの独特の弾力がとても楽しくて、すぐに書道を始めました。この時に体感した気持ちは、今でも変わらず私の中にあり、これまで書を続けてきた原体験になっているのだと思います。お手本通りに綺麗に書くということは、もちろん基本として大切ですが、私が子供の頃に感じた、その自由な楽しさを今の子供たちにも感じて欲しくて、時折ワークショップを開催しています。

書家としてのスタートはどのように始まったのでしょうか。

2011 PARIS「和美展~WABI~」

大学進学時に、担任の先生からの勧めもあって、それまで習い続けてきた書道を学べる大学があることを知り、大東文化大学に入学しました。大学では古典的な書や理論、歴史、漢文など学ぶことが多く、勉強すればするほど、知らないことが沢山あることに気づかされました。そして、書の奥深さを感じると同時に、小さい頃からモノ作りが好きだったこともあり、墨を使って自分なりの表現をしたいという気持ちが強くなっていきました。

卒業後は、スポーツ関係の仕事のお手伝いをしながら書を続けていたのですが、ご縁があってナイキさんから、各分野で活躍するアスリート達のイメージを文字で表現するという仕事をさせていただく機会に恵まれ、墨で自由に表現することの難しさと楽しさを実感したことが、私のキャリアの第一歩だったように思います。

中塚さんは、空間を書でデザインする空間カリグラフィーという独自のスタイルを確立され、商業空間や旅館、ホテルなど多種多様な空間のアートワーク、またプロダクトデザインなどを手掛けていらっしゃると伺っています。書家として、空間カリグラフィーデザイナーとして、大切にされていることは何ですか。

2012 Alfa Romeo × VOGUE 「爽」
2004「大切なもの」

書は一生追求し続けるものであり、年齢を重ねることで深みが出てくる世界だと思います。一方で、今しか出来ないことを提案したいという思いもあり、空間カリグラフィーというスタイルを作って様々な活動を続けてきましたが、最近はあまり肩書きにこだわらず、自然体で仕事をしています。大切なことは、人の心に寄り添う作品を作ることであり、私の作品を見て、一人でも多くの方が、書の魅力を感じてくれたら嬉しいと思って仕事に取り組んでいます。

2013 富士山世界遺産登録記念メダル

また、デジタル主流の便利な世界だからこそ、手書きの文字を書く楽しさや大切さを伝えていきたいという気持ちも強く、デザインやサイズにこだわった練習帳を出版したり、書道教室を開いたりしています。手書きのお礼状を貰って、それが嬉しく自分も書きたくなったと書道を始めた方もいらっしゃいます。やはり、丁寧に手書きで書かれた手紙には心が込められていると実感される方が増えているように感じます。

アルフレッド・ダンヒル銀座本店の、ウィンドウディスプレイデザインなど、自由な発想で書を表現される場も多く、まるで1枚のアート作品のように輝いていますが、中塚さんにとって、想像の源はどんなところにあるのでしょうか?今後の抱負とともにお教えください。

ダンヒルのウィンドウディスプレイはとても楽しくさせていただいた仕事でした。普通の書の展示をご依頼いただいたのですが、私なりの世界観でダンヒル氏のイメージを膨らませ、「犬と紳士と私」という作品をつくりました。どんな作品も出来るまでは大変ですが、色々な可能性を想像して考えている時が一番楽しい時間です。

私は旅が好きで、先日もセザンヌが生まれた地を訪ねる旅をしました。その土地に行って光や風、空気感を肌で感じ、歴史を知ることで新しい発見がある旅は、私にとって、かけがえのない大切な時間です。私自身をリセットする時間でもあり、旅から戻ってくると、またフラットな気持ちで仕事に臨めるように思います。美味しいものを食べて、きちんと寝て、時々旅に行き、身近にあるものを大切にすることが私の想像力の源なのかもしれません。

2011 Alfred Dunhill 銀座本店
2011 Alfred Dunhill 銀座本店

まだまだ学ぶことが多く、これからも今までやってきたことを掘り下げて、色々な表情を持つ書の魅力を追求していきたいと考えています。今出来ることを一生懸命にやっていれば後悔はないと思いますので、自分の心に正直に100%全力で臨んでいこうと思っています。

中塚 翠涛(なかつか すいとう)

岡山県倉敷市出身。東京都在住。4歳から書を学ぶ。大東文化大学文学部中国文学科(現・中国学科)卒業。
古典的な書をもとに、様々なジャンルの題字やロゴ制作に携わる。創作活動と同時に、多くの方に手書きを楽しんでいただきたいという想いから、ペン字練習帳等の出版も多数。著書「30日できれいな字が書けるペン字練習帳」(宝島社)シリーズは累計320万部を突破。テレビ朝日系「中居正広のミになる図書館」では「美文字大辞典」の講師として出演。手がけた題字は、ユネスコ「富士山世界遺産」、松竹映画「武士の献立」など多数。TBSドラマ「SPEC」では書道監修を務める。