創造人×話
人を楽しませたい、喜んでもらいたいという気持ちが私のクリエイティブワークの基本です。
えぐち りかさんアーティスト・アートディレクター
今回は、電通に籍を置き、アートディレクターとして数々の広告キャンペーンや企業ブランディングを手掛ける傍ら、アーティストとして国内外の美術館やギャラリーで作品を発表するなど、枠にとらわれない幅広いフィールドで伸びやかに活躍されている、えぐち りかさんをご紹介します。
えぐちさんは、JAGDA新人賞、イギリスD&AD金賞、スパイクスアジア金賞銀賞、ひとつぼ展グランプリ、岡本太郎現代芸術大賞優秀賞など多くの受賞歴を持ち、大学生の頃からその才能が注目されていたクリエイターです。
ガラス作家、アーティスト、アートディレクターとたくさんの顔をお持ちのえぐちさんにとって、モノづくりの原点はどこにあるのでしょうか?子供の頃はどんなお子さんだったのか教えてください。
私は小学校の頃からモノを作ることが大好きな子供でした。絵を描いたり、紙粘土工作、縫い物や編み物、お菓子を作ったりと、とにかく何かを作ることが面白く、小学生の頃の愛読書はオレンジページで、大人に混じってカルチャースクールに通い、子供一人という中、アメリカンフラワーやパッチワークや刺繍を習ったりしていました。作ったモノは大好きな先生や友達にプレゼントして喜ぶ顔を見るのが、何よりも嬉しかったことを覚えています。
一人で楽しむというよりは、誰かを喜ばせたいという気持ちが強く、その思いは大人になった今も変わっていません。
アーティストになられたのは自然の流れだったのですね。
大学では美術を専攻したのですが、その時はアーティストというより、素敵なお母さんに憧れていて、自分で作った料理をのせる器を作りたいと思ってガラスを専攻しました。ところが、いざ大学で本格的に学び始め、クリエイターや職人を目指す同級生達ともの作りの奥深さを学ぶにつれ、もっと上手になってガラス作家になりたいと思い始めました。学生時代はガラスの魅力に惹かれ、朝から夜まで夢中になってガラスに取り組んでいました。その頃に作った作品のひとつが、「ガラスのたまご」シリーズです。目玉焼きのかたち自体が器になっていて、この作品で様々な賞をいただくことができ、学生時代に、ミュージアムショップやインテリアショップに置いてもらえる作品を作りたいという夢を実現することができました。
その後は、インスタレーション的なアートに興味を持ち、多摩美術大学の大学院に進み、ガラス漬けの日々を送っていたのですが、もっとたくさんの人々に見てもらい、喜んでもらうためにはどうしたら良いか、と考えている時にアートディレクターの方々にお会いする機会に恵まれました。その出会いから、私もアートディレクターになりたいと思い、それからの半年は大学が終わった後、広告の学校に通って懸命に学び、電通に入社することができました。
アートディレクターとして、またアーティストとして大切にしていらっしゃることについてお聞かせください。
アートも広告も、私の中では垣根がなく、アーティストとしては、自分の内側から出るテーマで、見た人に楽しんでもらえる作品を作ること、アートディレクターとしては、クライアントのメッセージを訴求しながら、楽しんでもらえる広告を作ることを大切にしています。そこは子供のころから、ブレることなく、見る人にわくわくさせたりドキドキさせたり、喜んでもらいたいという気持ちが常に根底にあるのだと思います。
NTT docomoのNYで開催された「ドコモダケアート展」、「TBS 6チェン!」キャンペーン、ソフトバンク「PANTONE∞」の携帯端末ディレクションやCMなど、話題の広告を次々と手掛けてこられた、えぐちさんの最近のお仕事、また今後の展望についてお聞かせ願います。
昨年は、前から作りたかった絵本を出版しました。絵本の制作は3作目だったのですが書籍として出版したのは今回が初めてで、「パンのおうさま」という題名の絵本です。
私は2人の小さな男の子を持つ母親で、「今一番興味があることは子供です」と言えるほど、子供との時間を大切にしています。そんな母親としての目線、そしてアートディレクター、アーティストとしての経験を生かし、見た目と手触りが食パンそっくりな装丁の楽しい絵本を作りました。制作にあたっては、広告制作と同じように、絵本について徹底的にリサーチし、店頭で目をひくように、売り場でパンのように籠に入れて販売したり、実際のパン屋さんでも販売するというアイデアを出し、実現しました。
最近は仕事の領域が広がってきて、地球にも人にも優しいグローバル新ブランド「KOE(コエ)」のロゴをはじめとするCI全般、ポスターやCM、店舗イメージなどビジュアル面でのブランディングデザインを行いました。グラフィックやCMで登場する全てのモデルが目を閉じているというビジュアルには、“自分の内なる声や地球の声に耳をすます”というメッセージが込められています。
レディース、メンズ、キッズ、マタニティーまで揃っているこのブランドは、昨年秋に、岡山に第一号店が出来、今年の夏に関東を含む10店舗に増え、数年以内に国内外で広く展開される予定で、とても楽しみにしています。他にも企業のリブランディングなどを手掛けており、多忙な日々を送っていますが、これからも、見た人を楽しませたいという気持ちを大切にしながら作品をつくり続けていきたいと考えています。
えぐち りか
電通にてアートディレクターとして働く傍ら、アーティストとして国内外で作品を発表。2014年絵本「パンのおうさま」が小学館より発売。2011-12年フィギュアスケート髙橋大輔選手の衣装を担当するなど、広告、アート、プロダクト、衣装デザインなど様々な分野で活動を展開。
最近の仕事に、新グローバルブランド「KOE」のビジュアルブランディング、ベネッセこどもちゃれんじbaby教材玩具デザイン、ソフトバンクPANTONE6 CMグラフィック及び携帯端末ディレクションなど。D&AD金賞、スパイクスアジア金賞銀賞、グッドデザイン賞、キッズデザイン賞、アドフェストブロンズ、INTERNATIONAL ANDY AWARDS銀賞、JAGDA新人賞、ひとつぼ展グランプリ、岡本太郎現代芸術大賞優秀賞、街の本屋が選んだ絵本大賞3位、他受賞多数。二児の母。