創造人×話
光は風や空気と同じ存在。
人の感覚に合わせた光のデザインが重要だと考えています。
グエナエル・ニコラさんデザイナー
株式会社キュリオシティ代表
今回は、東京に拠点に置き、インテリアデザインから建築、プロダクトまでジャンルを越えて国内外で広く活躍されていらっしゃるデザイナー、グエナエル・ニコラさんをご紹介します。フランス人のニコラさんは、ヨーロッパ各国のラグジュアリーブランドのショップデザインをはじめ、フレグランスのボトルデザイン、数々の展示会のディレクション、また光をテーマにした多くの作品を発表するなどシームレスに活動を続け、今、最も注目されているデザイナーのひとりです。
ニコラさんは日本に住まれてすでに24年と伺いました。まず、日本にいらした経緯からお聞かせください。
私はパリとロンドンでそれぞれインテリアデザイン、インダストリアルデザインを学んだ後、1991年に日本に来ました。本や雑誌、メディアを通して日本のことを知り非常に興味を覚え、その時の東京に“未来”を感じたことが来日のきっかけでした。ヨーロッパも日本も歴史があるという点は同じですが、日本は歴史を大切にしつつ新しいことが出来るという点がとても魅力的で、そんな先進的な時代を作っているオピニオンリーダーに会い、ぜひ一緒に仕事をしたいという願いを持って東京に来たのがデザイナーとしてのキャリアの始まりでした。
その後着実にキャリアを重ねられ、今では日本のみならず海外でも第一線で活躍されているニコラさんですが、ひとつのジャンルにとらわれず、多岐にわたりデザインを手掛けていらっしゃるニコラさんのデザインに対する考え方をお教えください。
プロダクトやインテリア、建築とその対象が何であっても、私のデザインに対する考え方は基本的に同じです。プロダクトデザインの世界では、たとえば0.2mm単位で仕事を進めていくことは当然ですが、建築の仕事であっても5mm単位で考えるなど、ディテールにはとてもこだわりを持っています。ポイントはすべて人間からスタートするということで、デザインの対象が時計であれ、建物であれ、変わらないのは人のスケールです。目線から何が見えるか、何が聞こえるかを考え、使う人と物、空間との関係性やストーリーを考えることが重要なのだと思っています。
また、身の回りの様々なものに目を向け、それは本当に必要なものなのか、そのかたちで良いのかを見直しリセットするところから始めることも大事です。大切なことは、10年、20年、30年後にどういう世界をつくりたいのか、未来を考えてデザインすることだと私は思います。
ショップや展示会などのライティングデザインを多く手がけ、光をテーマにした数々のインスタレーションを発表されているニコラさんにとって、光はどのようなポジションにあるのでしょうか。
フランスにいた時は、照明についてのコンセプトはありましたが、光のコンセプトは希薄で、デイライトと照明という括りでとらえていました。光についての考え方が変わったのは日本に来てからのことです。来日して最初のプロジェクトがオリジナルの解釈で新しい仏壇を提案するという仕事だったのですが、その時にお寺に行き、光と影の見事なバランスに感銘を受けました。お寺に入ると暗くて最初はあまり良く見えないけれど少し時間が経つと目が慣れて中の様子が見えてくる。人の感覚を使って光をデザインすることの大切さを教えてもらったような気がしました。
それ以来現在に至るまで、光と影の効果を考えながら、バランスの取れたライティングのあり方を追求してきました。光は、風や空気と同じような存在だと思います。暖かさや寒さは目に見えないけれど感じることが出来るように、光も単に何かを照らすのではなく、人の感覚で感じるものなのではないでしょうか。私はガラスや和紙、箔など透明感のある素材が好きで使用することが多いのですが、たとえば石とファブリックなど、硬い素材と柔らかい素材をコネクトさせたり、空間に深みや奥行きを持たせたりする時に光は大きな役割を果たしてくれます。光と素材の存在感をいかにコントロールするかが大事だと考えています。また、今後欲しい光のひとつとしてスプレー照明というアイデアがあります。ヘアスプレーのように、吹きかけた場所や物が発光してあかりになるものがあったら面白いのではと思って、実際にリサーチをしているところです。
今後の展望について少しお聞かせ願います。
やりたいことはたくさんあり、その中にはアイデアはあっても技術がまだないものも多く含まれていますが、新しいテクノロジー、そしてクラフトマンシップの力を信じ、様々な可能性にチャレンジしていきたいと考えています。現在、ヨーロッパのブランドショップや国内の大型商業施設のインテリアデザイン、オリジナルの香水づくり、これまでの仕事をまとめた本の制作など、様々なプロジェクトが進行中です。
キュリオシティという社名の通り、まず好奇心を喚起して驚きが起こり、次になるほどと納得していただき、最後には愛着を持ってもらえるような商品や空間を、未来へ向けてつくり続けていきたいと思っています。
グエナエル・ニコラ
1966年フランス生まれ。1988年、E.S.A.G(パリ)インテリアデザイン学士号。1991年、RCA(ロンドン)インダストリアルデザイン修士号。来日後、フリーランス活動。1998年、キュリオシティ設立。2004年、E.S.A.G(パリ)名誉修士号取得。
建築、インテリア、プロダクト、グラフィックなどジャンルを越えたデザインを展開。近年は日本を拠点としながら、海外プレステージブランドの店舗を多数手がけるなど、インターナショナルに活躍。
また、2016年11月竣工予定の銀座松坂屋跡地の再開発「銀座六丁目プロジェクト」の商業施設部分の内装デザイナーに起用されている。