創造人×話

質量を持たない光や音をテクノロジーで制御し、デジタルの領域に広がる新しい可能性に挑戦し続けています。

猪子 寿之さんチームラボ代表

今回は、最先端のデジタルテクノロジーとクリエイティビティにより、様々な分野でアート作品を発信し続け、国内はもちろん、海外からも高い評価を受けているチームラボ代表の猪子寿之さんをご紹介いたします。

チームラボとは、どのような会社なのでしょうか。

チームラボは、プログラマやエンジニア、数学者、建築家、CGアニメーターなど、各々が高度な専門知識やスキルを持つスペシャリストから構成されているウルトラテクノロジスト集団です。

現在、約400人のスタッフがいて、Webサイト構築やスマートフォンアプリ開発、企業のブランディング、デジタルサイネージ、アート作品など様々なものを、まさに社名通りチームで考え、つくり、ものごとのソリューションを提供しています。

展示制作を担当されたミラノ万博「2015年ミラノ国際博覧会」日本館の「HARMONY」が、最も印象に残る展示に贈られる「BEST PRESENTATION賞」を受賞されるなど、チームラボは多くの魅力的なアート作品を発表していらっしゃいます。
「HARMONY」を含め、いくつかの作品をご紹介ください。

ミラノ万博の日本館は半年間の会期中に200万人以上が来館し、10時間待ちの日もあったほどの人気を集め、展示デザイン部門で金賞を受賞しました。

チームラボが担当した「HARMONY」という展示は、水田をモチーフに、膝丈ほどの高さの稲穂に見立てたスクリーンを会場に設置し、まるで稲穂を分け入るかのように映像空間の中を歩き回ると、鑑賞者の動きに合わせて映像が変化するというインタラクティブデジタルインスタレーションで、「BEST PRESENTATION賞」を受賞出来たことは、とても光栄でした。

HARMONY(ミラノ万博2015 日本館)

チームラボは、インタラクティブ(相互作用性)な演出手法を使った作品を多く発表しています。

ハウステンボス(長崎)の「呼応する木々」という作品は、運河がひとつのアートインスタレーションになっていて、運河沿いのLEDでライトアップされた木々に人が近づくと色を変えながら音を奏で、隣の木の色も変わる仕掛けを施しています。

呼応する木々(ハウステンボス、長崎 2014)

福岡のキャナルシティ博多のクリスマスツリーは、LEDを3次元上に配置することにより、3次元の動く立体物をリアルタイムに映し出すことが可能な独自の技術を用いた「動く光の彫刻」です。

来場者がスマートフォンでオーナメントを選び、ツリーに向かってスワイプすると、選んだオーナメントが巨大な光の立体物となって出現し、クリスマスツリーを飾り付けすることが出来るという、この来場者参加型のツリーは香港のK11(ショッピングモール)でも展示されました。

表面ではなく体積的に中まで配置したフルカラーLEDチップを1/30秒のフレームでひとつひとつ制御することで、今まで体験したことがない光の色をつくることが出来ました。

チームラボクリスタルツリー(キャナルみらいクリスマス、福岡 2015)

光や音を自在に操り、ただ作品を鑑賞するのではなく、そこにいる人が参加出来るというインタラクティブな作品は、年代を問わず多くの人々を魅了し、常に注目を集めています。
最先端のデジタルテクノロジーを駆使したチームラボならではの作品の特長、また作品に込めたメッセージをお教えください。

これまでの世界は物質的な価値観でものをつくっていましたが、デジタルの世界では、アウトプットとして出てくるものが光や音といった非物質的な存在なので、そこにあるものをそのまま使って別の世界に変えることが可能になりました。

ハウステンボスの「呼応する木々」も、昼間は普通の運河沿いの並木が夜になるとアート作品に変化します。

物質は固定的で変化しませんが、デジタルで光を制御することで変化させることが出来る点が特長のひとつだと考えています。

その場にいる人の存在によって作品が変化するインタラクティブな作品は、同じ空間に他の人がいることがポジティブになるという側面も持っています。

たとえば、モナリザを観る時、モナリザにとって鑑賞者はもちろん関係なく、観る側にとっては隣にいる他者は邪魔な存在でしかありません。

けれども鑑賞者が作品に容易に参加できるインタラクティブな作品は、いろいろな人がオーナメントを投げかけることで、より楽しくなったり美しくなったりするクリスマスツリーのように、そこにいる人が関わることで作品の魅力が増し、他者の存在をポジティブに捉えることが出来るようになるのです。

チームラボでは、子どもたちが共同で創造する「共創」を学ぶことが出来る教育プロジェクトとして「チームラボアイランド − 学ぶ!未来の遊園地 − 」を国内外で展開しています。

自分の描いた魚が巨大な水槽に泳ぎ出す“お絵かき水族館”などのアート作品で遊ぶ子どもたちは、一緒にものを作る楽しさから隣にいる知らない子とすぐに友達になれるようで、これも参加型の演出手法がもたらしてくれる効果だと考えています。

お絵かきタウン(チームラボアイランド 学ぶ! - 未来の遊園地 -、2014)

昔の日本人は隣人との関係性を大切にして暮らしてきたのに、デジタル社会になって、それが希薄になったと言われがちですが、チームラボは異なるアプローチでデジタルという概念を捉え、可変的なアート作品や空間をつくることで、同じ街に住む人々のことをよりポジティブに考えられるような、そんな未来を目指して進んでいきたいと思っています。

花と魚 - 相模湾大水槽(新江ノ島水族館、2015)

猪子 寿之(いのこ としゆき)

1977年、徳島市出身。2001年東京大学工学部計数工学科卒業と同時にチームラボ創業。

チームラボは、プログラマ、エンジニア、CGアニメーター、絵師、数学者、建築家、ウェブデザイナー、グラフィックデザイナー、編集者など、デジタル社会の様々な分野のスペシャリストから構成されているウルトラテクノロジスト集団。

アート・サイエンス・テクノロジー・クリエイティビティの境界を曖昧にしながら活動している。

「えのすい×チームラボ ナイトワンダーアクアリウム2015」(新江ノ島水族館、神奈川)、「キャナルみらいクリスマス2015」(キャナルシティ博多、福岡)、「ミラノ万博2015日本館」(ミラノ、イタリア)「teamLab: Flutter of Butterflies beyond Borders」Saatchi Gallery、(ロンドン、イギリス)、「佐賀・武雄のあかり ~未来を照らす武雄のあかり展~」(御船山楽園、佐賀)、「チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!未来の遊園地」(日本科学未来館、お台場、東京)など。