技術資料

殺菌へのUV応用の理論と応用実例

光応用事業部 光応用開発部 ソフトエンジニアリング課

キーワード

UV,殺菌,滅菌,応用,食品,衛生,医療,表面殺菌,流水殺菌,空気殺菌,パルス光

1.はじめに

近年,UVを用いた殺菌方法は,薬剤の使用による弊害,環境意識やHACCPなど衛生管理の重要性の高まりとあいまってさまざまな分野,場面で使用されるようになってきた。UVの使用方法としては,物質表面に直接照射する「表面殺菌」,水や溶液を殺菌する「水の殺菌」,空気中に存在する菌を殺菌する「空気殺菌」などがあり,また,利用分野としては食品分野,衛生分野,医療分野などがあげられる。

本報では,UV殺菌の理論的な側面を概説するとともに,UVの応用実例として,その利用分野を切り口に,近年,製薬工程で滅菌用途に使用されはじめた「パルスドキセノン殺菌装置」などUVを応用した製品についてご紹介したい。

2.殺菌へのUV応用の理論

2.1 UV殺菌の原理

紫外線による殺菌機構については,古くから研究されその報告1)2)3)4)も多数あるが,いまだ解明されていない部分も多く現在は一般に次の説明がされている。細菌を含め全ての生物の細胞内には遺伝情報をつかさどる核酸(DNAまたはRNA)が存在し,UVが照射されると核酸はその光を吸収し,一部のピリミジン(主にチミン)がピリミジン二量体を形成するため,遺伝子からの転写制御が滞り新陳代謝に支障を来たし死に至るとされる。したがって,UVで細菌自体は直ちに死ぬわけではないが,代謝能力,増殖能力が無くなった状態になる。そうしたことから,UV殺菌の際は,他の微生物の場合も含めて,一般的に「不活化」という表現が使用される。また,少量のUVの場合は,細菌の種によっては可視光を強く照射されると活性を取り戻す現象「光回復」も見られる。その光回復には,波長300~500nmの可視光によって活性化される光回復酵素による「酵素的光回復」と,近紫外光により間接的に復元される「非酵素的光回復」の2通りが知られている5)6)7)。対象菌が光回復する場合は,その回復レベルも考慮してUV照射量などを決定する必要がある。

2.2 細菌のUV感受性

UVによる殺菌効果は,光の波長域によって大きく異なることが知られている。図1にDNAならびに殺菌作用の分光特性を示す。殺菌に一番有効な波長は260nm付近であるが,波長300nm以下のUVであれば殺菌効果はある。細菌にUVを照射する場合,その必要量は菌種によって異なり,また同一菌種でも芽胞を形成するなど形態によっても,存在する環境によっても異なってくる。例えば,枯草菌では培地上の栄養細胞を99.9%死滅させるのに21.6mJ/cm²であるのに対して芽胞の状態では33.3mJ/cm²となる8)

UV照射による菌類の生存率は,一般的に次の式で表される。

S = P/PO = e-Et/G

S
菌類の生残率
PO
UV照射前の菌数
P
UV照射後の菌数
E
有効なUV照度(mW/cm²)
t
照射時間(秒)
Q
生残率Sを1/e = 36.8%にするのに必要なUV照射線量
(a)DNAの分光特性
(b)殺菌作用の分光特性

図1 DNAと殺菌作用の分光特性

殺菌に使用する装置を決定する際には,その使用環境中でUV耐性の高い菌種を選び出し,それを指標菌として必要なUV照射量などの条件を決める方法がとられる。特に菌種が特定されない場合は,黒麹カビ(Asp.niger)や枯草菌芽胞(Bac.subtilis spores)など一般的にUV耐性の高い菌種が指標菌として使用される。

2.3 殺菌に用いられる光源

殺菌に用いられる光源として,殺菌作用の大きい260nm付近(253.7nm)のUVを効率よく発光する低圧水銀ランプが一般的に広く使用されている。使用するガラス管は,UVを透過する必要があるため特殊ガラスや石英ガラスが用いられる。また,殺菌作用は波長が300nm以下であれば有効であるので,最近では高圧水銀ランプやキセノンランプなども殺菌用途に使用されている。

次にUVの応用実例について記述する。

参考文献

  1. 武部啓:DNA修復,東京大学出版会,pp.1-19(1983).
  2. 山口彦之:放射線と生物,啓学出版,pp.51-140(1981).
  3. 江上信雄:生き物と放射線,東京大学出版会,pp.104-113(1986).
  4. 芝崎勲:防菌防黴,Vol.14,pp.251-260(1986).
  5. 大垣眞一郎:紫外線照射による消毒技術の基礎概念,造水技術,Vol.15,No.1,pp.33-39(1989).
  6. 新谷英晴:紫外線滅菌による損傷とその修復メカニズム,防菌防黴,Vol.31,pp.385-391(2003).
  7. 大瀧雅寛:紫外線による微生物の不活化作用とその機序,日本水環境学会シンポジウム,pp.61-62(2003).
  8. 岩崎電気(株):技術資料,紫外線殺菌,p.4(1993).

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